投資商品の勧誘や出資の募集などの契約締結前の交渉過程において、売り手が十分な説明をしなかったために、契約者が多額の損害を被ったとしてトラブルになることがあります。
信用協同組合による出資者に対する出資契約締結前の説明義務違反が問われた民事裁判で、最高裁は以下のとおり注目すべき判断を下しました[平成20(受)1940号最高裁判所第二小法廷平成23年04月22日判決、以下「本判決」といいます]。
【本判決の事案の概要】
個人ら(Xら)が信用協同組合であるYに対して平成11年3月に各500万円の出資をしたところ、Yが上記各出資の約1年9か月後である平成12年12月に経営が破綻した。YがXらに出資を勧誘した時点で、Yは債務超過の状態にありYの代表理事らは、このことを十分に認識し得たにもかかわらず、そのことをXらに説明しないままXらに出資するよう勧誘させた。
Xらは、Yに対し、出資勧誘の際の説明義務違反等を主張して,主位的には不法行為による損害賠償請求権又は出資契約の詐欺取消し若しくは錯誤無効を理由とする不当利得返還請求権に基づき,予備的には出資契約上の債務不履行による損害賠償請求権に基づき,出資金相当額及び遅延損害金の支払を求めた。
主位的請求は原審で棄却されたが、上訴の対象とはならず、原審が認容した予備的請求である債務不履行に基づく損害賠償請求の当否のみ最高裁で争われる形になった。
【判旨】
契約の一方当事者が当該契約の締結に先立ち、説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼす情報を相手方に提供しなかった場合には、上記一方当事者は、不法行為による賠償責任を負うことがあるものの、当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはない。
本判決は、契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼす情報に関する説明義務違反により、契約者が契約を締結するか否かに関する判断を誤って契約を締結してしまい、それによって損害を被ったという限定された事案について、このようにして締結された契約は説明義務の違反によって生じた結果と位置付けられるのであって、先行する説明義務違反をもって当該契約に基づいて生じた義務と捉えることはできないとして、当該締結された契約の債務不履行に基づく損害賠償責任を否定したものであり、講学上、「契約締結上の過失」といわれているもの一般についての責任の法的性質について最高裁の判断を示したものではありません。
しかし、不法行為の事実の立証はハードルが高いうえ、不法行為に基づく損害賠償請求権は3年の消滅時効にかかりますので、同様のケースでは契約上の義務違反としての債務不履行責任を一切問えないということになると、争う側としては訴訟の準備や戦い方に工夫が求められそうです。
そのような意味で、本判決は実務上大きな意義があるものとなりますので、ご紹介いたしました。皆様の参考になれば幸いです。
2011年10月21日 弁護士 澤田直彦