金融ADR(指定紛争解決機関制度)
 金融機関との紛争解決手続としての金融ADR(指定紛争解決機関制度)の利用件数が急増しています。訴訟よりも迅速・安価に紛争解決ができる可能性のある手続としての認知が広まってきた証拠でしょうか。

 平成21年の金融商品取引法等の一部を改正する法律によって、同法を含む16の法律に指定紛争解決機関制度が盛り込まれ、法改正以前から業界団体が業態ごとに運営していた苦情相談の受付業務に紛争解決のためのあっせん等の業務が加わるなどして、多数の金融ADR機関が誕生しました。

 数ある金融ADR機関のなかで、一般企業や個人が利用する可能性の高いADR機関は、一般社団法人全国銀行協会のあっせん委員会、特定非営利活動法人証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC)、社団法人生命保険協会の裁定審査会、そして社団法人日本損害保険協会のそんぽADRセンターでしょう。

 金融ADRが提供する紛争解決手段(alternative dispute resolution)は、和解のあっせんが中心であり、裁判所による訴訟・仲裁機関による仲裁とは異なり当事者を拘束する力がありません。弁護士や学識経験者等からなるあっせん委員が当事者双方から事情を聞いたうえで和解案を提示しますが、当事者がこの和解提案を受け入れるかどうかは任意です。しかし、各機関がウェブサイト等で公表する紛争解決の実績データや解決事例を見ていると、多くの申立事件で和解が成立し、解決に至っていることがわかります。

 全銀協のあっせん委員会を例にとって、近時の金融ADRの動向を少しだけ紹介します。全銀協は平成22年10月1日から指定紛争解決機関としての業務運営を開始しました。あっせん委員会は、弁護士、学識経験者、消費者問題専門家、全銀協役職員等から構成されています。当初は東京のみであっせん手続を行っていましたが、現在は活動拠点を東京、大阪、名古屋の3拠点に増やし、今後も拡大していく予定だそうです(この点FINMACは全国50箇所であっせん手続の利用が可能です)。
 金融ADRとしての指定を受けて以来、新規の申立件数はうなぎ登りで、全銀協の発表によると、平成22年第3四半期は98件(前年同期16件)、同年第4四半期は156件(同34件)、平成23年第1四半期は201件(同36件)のあっせんの申立がありました。なかでも目立つのはデリバティブ取引に関する事件で新規申立件数の実に5割超を占めています。

 デリバティブ取引に関する紛争が増加している背景には、通貨オプション取引をはじめとする為替デリバティブ取引契約による損失の拡大があげられます。金融庁が平成23年3月に公表した平成16年度以降に販売された中小企業向け為替デリバティブ取引契約(米ドル/円)に関する銀行(121行)に対する平成22年9月30日時点の状況の聞取り調査結果によれば、全販売契約数63,700件で、そのうち残存件数は40,500件、通算損失は1,400億円に上っていました。
 平成22年9月30日の時点でこの結果ですから、さらに円高ドル安が進んだ現在においては、1兆円を超える損失が発生していても不思議ではありません。ユーロ/円などの取引契約を含めると、件数、損失額ともこれをさらに上回る規模になります。
 帝国データバンクなどの情報サービス会社のニュースリリースによれば、近時、円高による倒産や破たん事例が急増しており、かなりの部分は為替デリバティブ損失が主たる原因ということです。憂慮を通り越して、なんとしても救済が図られるべき事態と言えるのではないでしょうか。

 さて、今回はこの程度にして、次回も為替デリバティブ取引契約を題材にもう少し金融ADRのお話をしたいと思います。

2011年11月18日 弁護士 樽本 哲

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