職場におけるメンタルヘルス対策
近年、経済・産業構造が変化する中で、仕事や日常生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合が高くなっています。また、厚生労働省の発表した自殺やうつ病患者による社会的損失は、平成22年度で約1.7兆円と大きく、その損失は甚大であり、自殺やうつ病対策の問題は、社会的にも重要な問題となっています。
 このような社会状況の中、自律神経失調症を患う被用者に対する産業医の行為が不法行為に該当する場合のあることを認めた注目すべき裁判例が出されました[大阪地方裁判所平成23年10月25日判決/平成22年(ワ)第9240号]。
今後のメンタルヘルス(精神の健康)対策にあたって参考となりますので、ご紹介いたします。

 【事案の概要】
 原告は、財団法人Aに勤務しているが、自律神経失調症により、平成20年6月30日から平成21年4月26日まで休職していた。被告は、原告の勤務先の産業医を務めていた医師である。
 原告は、休職中、2週間に1度のペースでBに通院し、自宅療養をしていたところ、勤務先の上司であるC係長から、産業医による面談を打診され、平成20年11月26日、勤務先近くの喫茶店で、C係長の同席の下、被告と面談した。原告は、当該面談の際に、被告から「それは病気やない、それは甘えなんや。」、「薬を飲まずに頑張れ。」、「こんな状態が続いとったら生きとってもおもんないやろが。」などと詰問口調で非難されるなどしたため、病状が悪化し、このことによって復職時期が遅れるとともに、精神的苦痛を被ったとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告に対し、逸失利益の一部の賠償及び慰謝料の支払を求めた。

 【判旨の概要】
 本判決は、まず、産業医としての被告の注意義務について、「被告は、産業医として勤務している勤務先から、自律神経失調症により休職中の職員との面談を依頼されたのであるから、面談に際し、主治医と同等の注意義務までは負わないものの、産業医として合理的に期待される一般的知見を踏まえて、面談相手である原告の病状の概略を把握し、面談においてその病状を悪化させるような言動を差し控えるべき注意義務を負っていたものと言える」としました。
 その上で、本件について「一般に、うつ病や、ストレスによる適応障害などとの関連性は容易に想起できるのであるから、自律神経失調症の患者に面談する産業医としては、安易な激励や、圧迫的な言動、患者を突き放して自助努力を促すような言動により、患者の病状が悪化する危険性が高いことを知り、そのような言動を避けることが合理的に期待されるものと認められる」とし、原告との面談における被告の言動は、上記の注意義務に反するものであると判示した上で、原告の請求を一部認容しました。

 これまでも産業医自身が安全配慮義務違反又は不法行為に基づく損害賠償請求を求められ裁判になった事例はありましたが、上記の裁判例は、メンタルヘルスに係る事案で産業医が敗訴した初の裁判例です。
 今後も、メンタルヘルスに関する問題は、社内的・社会的にもますます重大な問題となるものと思われます。厚生労働省のHPに職場におけるメンタルヘルスに関する詳細なガイドラインが掲載されていますので、参考にしていただければと思います。

2012年3月2日  弁護士澤田直彦

■ PRIVACY POLICY/プライバシー・ポリシーに関して