優越的地位を“濫用しない”ための処方箋①

独禁法第19条の禁止する不公正な取引方法のひとつに優越的地位の濫用という行為があります。今回はこの優越的地位の濫用に関して,自社が問題を起こさないためにはどうすればよいかを,3週間の連載形式で考えてみようと思います。

第1週の今回は,優越的地位の濫用に関する法規制と過去の摘発事例について簡単に解説しています。なお,記述中に執筆者の私見が含まれておりますので,悪しからずご了承ください。

 

1.定義

 

まずは定義からおさらいしていきましょう。優越的地位の濫用とは,「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に」独禁法第2条9項5号に該当する行為をすることをいいます。具体的には次の行為です(下線部分は条文の引用です。)。

 

 商品や役務を購入させる行為

継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して,当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること

 経済上の利益を提供させる行為

継続して取引する相手方に対して,自己のために金銭,役務その他の経済上の利益を提供させること

 返品,代金減額等を強要する行為

取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み,取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ,取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ,若しくはその額を減じ,その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し,若しくは変更し,又は取引を実施すること

 

条文の規定ぶりからも分かるとおり,事業者が取引先に対して上記イロハのいずれかの行為を形式的に行ったというだけで独禁法違反に問われるわけではありません。「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用」すること,その利用が「正常な商慣習に照らして不当」であることの2つが要件となっています。どうでしょう。このあたり,対策を練る上でのポイントになりそうな気がしませんか?

対策の中身については後で検討するとして,対策が間に合わずに事件になってしまった事例を見てみましょう。

 

2.課徴金事例

 

公取委が優越的地位の濫用行為を行った事業者に対して課徴金納付命令を発令できるようになった(※法律上は「命じなければならない」となっています。)のは,平成21年改正独禁法の施行日である平成22年1月1日以降のことです。

平成22年中に発令された例はありませんでしたが,その後,執筆時現在までで,小売業者3社(外資系玩具販売店,地域大手食品スーパーおよび業界第2位の家電量販店)に対して同命令が発令されています。一部は事業者側が争って審判になっているようですね。公取委のウェブサイトにこれらの事件の報道発表資料が掲載されていますので,興味のある方は探してみてください。

 

これらのケースは,かなり名の通った規模の大きい小売業者(*1)が摘発の対象とされたことや,制度変更後の初期における摘発事例というだけではなく,事業者が納付を命じられた課徴金が2億円数千万円から40億円!と多額に上ったことで,注目を浴びてしまいました。

優越的地位の濫用のケースにおける課徴金の額は,違反期間中(3年を超える場合は3年を限度とし,平成21年改正独禁法の施行日前の分は含めない。)の対象商品または役務の売上額または購入額の1%に相当する額です(法第20条の6,同法施行令31条)。価格カルテルにおける課徴金と異なり,全業種一律1%で,中小企業に対する減額規定はなく,要件を満たす限り違反にかかる取引全部(複数の取引先がいればその全部かつ全ての取引)が課徴金算定の対象となります。過去3年分の売上額または購入額の1%ですから非常に大きな金額ですね。

 

もし違反行為が発覚し,排除措置命令に加えて課徴金納付命令まで出されてしまうと,是正のための社内対応や課徴金の負担もさることながら,行政処分を受けるような遵法意識の低い会社として,社会や消費者からの信頼は失われ,事業の継続上深刻なダメージを受けてしまうおそれがあります。経営者には株主代表訴訟のリスクもあります。

そのような目にあわないためにも,取引上の地位が劣る相手と継続的に取引をする事業者は,優越的地位の濫用を行わない,現場に行わせないためのコンプライアンス体制の構築が是非とも求められます。

とはいえ,法令遵守にとらわれすぎて取引先との交渉も自由にできないようでは,適正な利潤の確保はおぼつかないですね。

法令遵守と利潤追求。二羽の兎を追わざるを得ないのは現代の企業の宿命といってもよいかもしれません。どこにバランスを求めるか。企業の力量が試されます。

 

(*1)大規模小売業者の納入業者に対する優越的地位の濫用に関しては,公取委は平成21年改正独禁法の施行以前から規制に力を入れており,いわゆる大規模小売業告示(成17年5月13日公取委告示第11号「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」)において,違法行為の類型化とその周知に努めてきた経緯があります。なお,同告示は,平成21年改正独禁法の施行前から存在し,施行後は,第2条9項6号,第19条及び第72条に基づく「不公正な取引方法」に関する公取委の特殊指定のひとつとして位置づけられることになりました。

 

平成24年4月9日  樽本 哲

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