優越的地位を“濫用しない”ための処方箋②

優越的地位の濫用に関する連載第2週です。優越的地位の濫用に関して,公取委のガイドラインを参考に,違法行為と適法行為の判断基準について解説しています。なお,記述中には執筆者の私見が含まれておりますので,悪しからずご了承ください。

3.公取委のガイドライン~「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して」の考え方

優越的地位を濫用しないための具体的な対処法を考えるに当たっては,独禁法第2条9項5号に規定された違法行為類型への該当性以外の要件について,もう少し詳しく見てみる必要があります。
この点について,公取委はどういう見解でいるのでしょうか。平成22年11月30日付「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」という公取委の解釈基準(以下「ガイドライン」といいます。)を見てみましょう。

ガイドラインによると,「甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙が受け入れざるを得ないような場合」をいい,次の個別具体的な事情を考慮してその有無が判断されます。

・甲の乙に対する取引依存度

取引依存度=

乙の甲に対する売上高
乙全体の売上高

・甲の市場における地位

甲の市場におけるシェアの大きさ,その順位等

・乙にとっての取引先変更の可能性

他の事業者との取引開始や取引拡大の可能性,甲との取引に関連して行った投資等

・その他甲と取引することの必要性を示す具体的事実

甲との取引の額,甲の今後の成長可能性,取引の対象となる商品又は役務を取り扱うことの重要性,甲と取引することによる乙の信用の確保,甲と乙の事業規模の相違等

以上の事情があるときは,乙は甲と取引を行う必要性が高くなり,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すことになりやすいと言えますので,甲の乙に対する優越的地位が認められやすくなります。

そして,ガイドラインによれば,「優越的地位にある行為者が,相手方に対して不当に不利益を課して取引を行えば,通常,「利用して」行われた行為であると認められる」とありますので,事業者の側で優越的地位を利用していないこと(優越的地位とは無関係に取引がなされたこと)を立証できない限り,利用の事実が推認されてしまいます。
この推認を覆すための立証のハードルは相当高く,取引の相手方に不利益を課す内容の契約書が存在するだけでは足りず,取引の相手方の全員が,「全く任意に契約を締結して喜んで取引を継続しています。」という内容の証言でもしてくれない限り,推認を覆すことは困難であると考えられます。
なお,ガイドラインに記載された違法の疑いの強い行為の<具体例>では,業界第2位のコンビニエンス・ストア・チェーンや総資産額第1位の銀行などが取引先との関係で優越的地位にある者とされていますが,過去には,これらよりも小規模の事業者でも排除措置が命じられた例がありますので,要注意ですね。

上記のとおり,優越的地位は,自己の側の事情だけでなく,取引の相手方の事情,および相手方との取引実態も考慮されますので,対処法を考えるに当たって,自己の市場における地位や今後の成長見込みを把握するだけでは足りず,個々の取引の相手方の事情を十分に把握し,分析しておくことが求められます。

4.公取委のガイドライン~「正常な商慣習に照らして不当に」の考え方

この点はガイドラインの記述が短いので全部引用します。

「正常な商慣習に照らして不当に」という要件は,優越的地位の濫用の有無が,公正な競争秩序の維持・促進の観点から個別の事案ごとに判断されることを示すものである。ここで,「正常な商慣習」とは,公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認されるものをいい,現に存在する商慣習に合致しているからといって,直ちにその行為が正当化されることにはならない。

つまりは,事業者の行為が,公正な競争秩序の維持・促進という観点からみて許容されるか否かによって,優越的地位の濫用の有無が判断されるということです。

上記1.のイからハの各行為は,経験的に違法と判断される可能性の高い行為が類型化されたものですので,これらのいずれかに該当したときは行為の不当性が強く疑われることになります。

しかし,商取引は本来私的自治が支配する世界です。ある取引が一方の当事者にとって多少不利益であったとしても,当事者が納得のうえで行っている以上は,国家が制限する理由はありません。相手方にとって不利益となる取引であっても,それを負担することによって相手方の商品又は役務の販売促進につながるなど,相手方がその負担に見合うだけの利益を享受できる場合や,債務不履行や瑕疵の存在など,相手方に不利益が課せられてもやむを得ない事情がある場合には,双方の合意のもとに実施されている限り,公正な競争秩序の維持・促進という観点からは許容されるべきです。
ガイドラインも同様の見地から,上記1.のイからハの各行為に該当する場合であっても優越的地位の濫用の問題とならないケースがあることを認めています。どのような事情があれば取引先に課す不利益が許容されると考えてよいのかについて解説していますので,ぜひご活用ください。

平成24年4月16日  樽本 哲

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