優越的地位を“濫用しない”ための処方箋③

優越的地位の濫用に関する連載第3週(最終回)です。優越的地位の濫用に関して,自社が問題を起こさないための対処法について,対取引先との関係と社内マネジメントの両面から考察しています。なお,記述中には執筆者の私見が含まれておりますので,悪しからずご了承ください。

5.優越的地位を“濫用しない”ためのポイント

優越的地位の濫用行為の要件を丁寧に検討してみることで,優越的地位を“濫用しない”ために意識すべきポイントがいくつか見えてきました。

(1) 自己の市場における地位など客観的な事情を把握するだけでなく,取引先の事業規模や自己との取引を希望する理由などの背景事情を分析しておくこと
→相手方の事業内容を分析し,取引の相手方として相応しい規模を有するか,自己との取引に過度に依存させないための適正な取引形態,取引額はどの程度かの評価を行う
→取引先に課す不利益がどの程度なら公正な競争秩序の維持・促進という観点から許容され得るものであるかを適切に判断する

(2) 取引先との契約交渉により適切な合意を形成すること
→相手方に不利益を強いる内容については,相手方に予見可能性を与え,恣意的な運用がなされないように,その条件や判断基準を明確に規定する

(3) 実際の現場で誤った運用がなされないように社内体制を整備すること
→ルールづくり、研修等による周知、モニタリング

 これらのポイントを実際の業務に取り込み,担当者のレベルまで落とし込んでいくことが経営者のなすべきことです。
参考までに,現場への落とし込みを図るひとつの方法として,PDCAサイクルの考え方に基づいた対処法を紹介しておきます。

① まずは,各部署で取引の相手方,当社との力関係,個々の契約内容についておおまかに洗い出しを行いましょう。このとき,仕入・購買,販売・営業の両面から自社の取引を確認するようにしてください。冒頭で見たとおり,優越的地位の濫用行為は購入と販売のどちらの取引も問題となり得るからです。

② ①と並行して,現場で用いることのできるマニュアルを整備します。法律上の細かい要件を羅列しても意味がありません。上記のガイドラインを参考に,自社の事業内容や①で情報収拾した取引の形態に応じて,違法になりそうな契約や要請の具体例を拾い出すことから始め,徐々に充実させるとよいものができるでしょう。どの程度,どういう方法なら取引先に要求してもよいのか,なにが違法になるのかについて,現場である程度の判断ができる程度になればしめたものです。

③ マニュアルができてきたところで,研修や勉強会を行い,社内の共有知にする努力をしてください。外部から講師を招いて過去の摘発事例や他社の取り組みについて研究するのもよいでしょう。これらは定期的に行っていく必要があります。

④ いよいよ自社の個々の取引について,担当者からのヒアリングや内部チームの調査によって優越的地位の濫用と判断されるおそれの有無を確認していきます。①で行ったよりも詳細な調査を行い,マニュアルをもとにリスクの芽をつみ取っていきましょう。重要なのは取引の実態を把握することです。契約書がなかったり,契約書があっても実際の運用で守られていなかったりすることは往々にしてあります。可能であれば,取引先からもヒアリングを行いたいところです。

⑤ 従業員の通報窓口や取引先の苦情相談窓口を設置することも有効です。公取委は,違法行為の類型ごとに相談・申告窓口を設けています。公取委の摘発事例のうちの相当部分は内部者からの情報提供や取引先からの匿名通報だという声もあります。会社が問題を把握する前に取引先がこの制度を使って公取委に違法行為の申告をすることを避けるためにも,社内向け通報窓口や取引先からの相談窓口を設けておき,できる限り社内で問題を発見し,解決できる体制を取っておくことはたいへん有効です。

⑥ 問題点が見つかったら放置せずに改善する方法を考えなければなりません。ガイドラインを参考に,違法にならないための条件を満たすにはどうすればよいのか,知恵を絞りましょう。具体的に相談したい事項が出てきたときは,外部の専門家である弁護士などを利用してもよいでしょう。見つかった問題点やその改善結果はすぐに社内で共有し,問題の拡大や再発防止に役立ててください。

 以上のサイクルをぐるぐると回していくことで,徐々に社内の意識は高まり,担当者にも違法行為とそうでない行為の判断力が備わってきます。違法との意識のないまま取引先に不利益を押しつける,逆に法律違反を気に掛けて正当な要求であるにもかかわらず取引先に伝えることを躊躇するということが減り,取引の健全性が高まるでしょう。
日常の業務をこなしながら,これだけの対応をすることは大きな負担となりますが,コンプライアンス違反によるインパクトはそれを上回ります。実現できれば大きなメリットを享受できると信じて,是非取り組んでいただきたいと思います。

さて,これまで述べたことは平時における事前の防止策であり,非常時には別の対処法が求められます。

公取委から事実関係の報告要請や警告が来たら?

取引先から過去の違法行為を理由に損害賠償請求がなされたら?

冒頭で見たように,優越的地位の濫用に該当するか否かは,個別具体的な事情のもとで濫用と評価できる不当な行為があったかどうかについての実体的な判断を要します。また,違法の疑いの強いケースでも,自社の正当性を主張し,違法行為が行われた期間や取引の範囲について争う余地が大いにあります。
日頃から備えを怠らず,非常時にも慌てずに対応できる体制を作っておきたいですね。

平成24年4月23日  樽本 哲

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