原状回復の問題は、消費者保護という社会潮流の中で理解することが不可欠です。平成12年に消費者保護法が成立したのをはじめとし、これまでの間、消費者関連法が進展し、平成21年には消費者庁が発足しました。今後、社会全体が消費者の視点に立った考え方に転換していくことは明らかであり、消費者保護を前提としない事業者は、淘汰されていくと思われます。原状回復ガイドラインは、こうした社会潮流の中から登場したものであり、今回の改訂も、また同じです。
原状回復ガイドラインは、通常損耗は賃料に含まれており、原状回復の範囲外であることを大前提として、原状回復問題を、賃貸借の出口(退去時)の問題として捉えるのではなく、入口(入居時)の問題と捉え直すことにより、契約関係を透明化しようとするものです。契約関係の透明化は消費者保護に資するものであり、消費者保護を大前提に、どのような保護の在り方が望ましいのかという視点から、原状回復の問題をとらえなければなりません。このことが、最終的には事業者の利益にも通じることを理解する必要があります。
原状回復ガイドラインの内容は、基本的にオフィスビル賃貸借についてもあてはまりますが、オフィスビルにおいては、賃貸住宅と違い、事務所、ショールーム、教室など、様々な使い方が考えられます。そのため、貸し方も様々になるのはいわば当然で、オフィスビル賃貸借においては、契約自由の原則により、原状回復について様々な特約が認められています。経年劣化、通常損耗についても、原状回復の対象として定めていることも多く、オフィスビルにおいて、賃貸当時の状況にまで戻す特約の有効性が問題とされた事例において、東京高裁平成12年12月27日判決(判例タイムズ1095号176頁)は、その特約の効力を認めています。
いずれにせよ、後のトラブル防止のため、入居に際して、「原状回復」の基準となる「原状」とは何か、つまり、原状回復の基準を予め詳細に定めておく重要性は、賃貸住宅でもオフィスビルでも違いがないということになります。
今後、賃貸住宅においても、オフィスビルに置いても、新原状回復ガイドラインに沿って実務が運用されていくことが予想されます。これを機に、ガイドラインに沿った賃貸借契約書の見直しをぜひご検討ください。
2011年1月19日 弁護士 町田裕紀
本件は、区分所有建物(以下「本件建物」といいます。)の所有権者が、管理組合法人に対して、多額の管理費等を滞納していたため、管理組合法人に指定された者が区分所有法59条1項による本件建物の競売請求の訴を提起してその認容判決を得た後に、その判決確定前に当該区分所有者が本件建物の共有持分の5分の4を第三者に譲渡したため、管理組合法人側が前所有者と併せて当該第三者に対しても競売の申立てをした事案です。
これに対し、最高裁判所は、「建物の区分所有等に関する法律59条1項の競売の請求は,特定の区分所有者が,区分所有者の共同の利益に反する行為をし,又はその行為をするおそれがあることを原因として認められるものであるから,同項に基づく訴訟の口頭弁論終結後に被告であった区分所有者がその区分所有権及び敷地利用権を譲渡した場合に,その譲受人に対し同訴訟の判決に基づいて競売を申し立てることはできないと解すべきである。」と判示して、競売申立て却下する原決定を維持しました。
◆平成23年(ク)第166号最高裁判所第3小法廷平成23年10月11日決定
(上記の裁判所のウェブサイトで判決全文を入手できます。)
最高裁判所の決定は、従来の通説的見解にも沿っていますが、この最高裁判所の決定を前提とすれば、区分所有法59条1項の競売の請求をしても、対象となる区分所有建物の共有持分の一部でも第三者に譲渡されれば、少なくても当該共有持分については容易に競売を回避されてしまうため、今後、管理組合側としては、競売の請求に先立ち、区分所有建物につき処分禁止の仮処分の申立て等の対策を検討する必要性が出てくると思います。
[区分所有法の参考条文]
(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第五十七条 区分所有者が第六条第一項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
2 前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
3 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第一項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。
(区分所有権の競売の請求)
第五十九条 第五十七条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
2011年12月15日 弁護士 廣江信行
これらの企業のなかには、過去にデリバティブ取引の経験はおろか、短期の為替予約取引すら経験したことのない企業も相当数含まれており、企業側が為替変動のリスクをどこまで把握していたのか、また、金融機関側も当該企業の実情をどこまで把握して取引の提案をしたのか疑問のあるケースも多く、そのようなケースは、金融ADRや訴訟に持ち込まれた後、金融機関側が解約清算金の一部を負担する内容での和解が多数成立しています(全銀協やFINMACのウェブサイトには,為替デリバティブ取引契約に関する紛争解決事例が掲載されているので参考にしてみてください。)。
オプションを売買する為替デリバティブ取引には、プレーンバニラ(チョコなどの混ざりモノのないアイスクリームのように,純粋な商品という意味)と呼ばれる単純な商品(取引の時期及び回数と予約レートのみを合意してオプションの取引をしていくもの)から、予約レートを引き下げる替わりに、特約で円高時における企業の外貨買い取り額を2倍、3倍にするものや、買取り価格にギャップを設けて円高時の企業の支払額を膨らませるものまで、多種多様な商品があります。それらは、取引相手の企業の実情やニーズにあわせて設計されていれば、為替変動リスクに対する有効なヘッジ取引になり得るものかもしれませんが、結果的に、企業にとって過大なリスクを負担させていると思われる取引も少なくありません。
また、このような特約のないフラットな契約であっても、長期間にわたって予め固定したレートで数十回も外貨と円の売買をすることを予約すること自体、経営基盤の不安定な中小企業にとってはひとつのリスクにほかなりません。それにもかかわらず、この手の為替デリバティブ取引は、原則として企業からの中途解約は認められていません。損失拡大防止のため取引から離脱する機会が制限されているのです。金融機関が任意に中途解約に応じる場合には解約清算金が発生することになっていますが、その算出方法は開示されませんので、適正さの検証はできないのが実情です。
このように、為替デリバティブ取引には、金融取引に対する知識経験が十分とはいえない中小企業を対象として金融機関が大量に販売するにはふさわしくない要素が多く含まれており、控え目に言っても取引相手を慎重に選ばなければならない金融商品であることは間違いありません。
金融ADRによって為替デリバティブ取引による損失に苦しむ企業が救われるのは喜ぶべきことですが、過去の解決事例を見聴きする限り、為替デリバティブ取引自体に内在する危険性や金融機関の説明義務違反の有無についてつっこんだ議論がなされるのはまれで、金融機関の契約提案時における企業の為替リスクのヘッジニーズの調査が十分だったと言えるか、企業が損失の負担に耐えられない規模の取引ではなかったかという点のみクローズアップされて、和解のあっせんがなされているのが実情のようです。
金融ADRでは、あっせん委員が関係者の事情聴取や提出された資料を調査することはできますが、裁判所のように証拠調べに基づく争点の判断はできないという制約があるため、紛争解決方法にもおのずと限界があるのです。
為替デリバティブ取引自体の危険性や説明義務違反の有無を本当の意味で争うには、現状では訴訟を選択するしかありません。過去の事例を見る限り、金融ADRではよほどの事情がない限り、過去に実現した損失を取り戻せる可能性はほとんどありません。
とはいえ、預金や融資の取引を行っている銀行等の金融機関相手に訴訟ができる企業は限られています。取引のある金融機関と好んで訴訟をする企業はいませんし、為替差損で苦しいのに訴訟追行に多額の時間と費用をかけられる余裕のある企業は少ないでしょう。そういった意味では、訴訟ほど金融機関と敵対せずに済み、結論が得られるまでの期間が短く(概ね半年程度が目安)、手数料も僅少もしくは無料の金融ADRは、企業にとって使い勝手がよい手続といえ、新規申立件数が伸びている理由もこのあたりにあると推測されます。
訴訟と金融ADR、または他の紛争解決方法(裁判所の調停や弁護士会など他の機関のADRなど)のいずれを選択し、また選択できるかについては、企業の置かれた状況に応じた慎重な検討が求められます。最近は為替デリバティブや金融ADRについて解説した雑誌や専門書も増えてきました。心当たりのある企業は、手遅れにならないうちに検討を始めてはいかがでしょうか。
なお、全銀協の金融ADRは、上記の為替デリバティブ取引のような金融機関との金融商品の取引にかかる紛争だけでなく、預金取引、融資取引とこれに伴う連帯保証契約といった本来の銀行業務にかかる紛争についても広くあっせんの申立を受け付けています。これらの取引でお困りの方は、訴訟に代替する紛争解決手段としての利用を考えてみてください。
2011年11月20日 樽本 哲
平成21年の金融商品取引法等の一部を改正する法律によって、同法を含む16の法律に指定紛争解決機関制度が盛り込まれ、法改正以前から業界団体が業態ごとに運営していた苦情相談の受付業務に紛争解決のためのあっせん等の業務が加わるなどして、多数の金融ADR機関が誕生しました。
数ある金融ADR機関のなかで、一般企業や個人が利用する可能性の高いADR機関は、一般社団法人全国銀行協会のあっせん委員会、特定非営利活動法人証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC)、社団法人生命保険協会の裁定審査会、そして社団法人日本損害保険協会のそんぽADRセンターでしょう。
金融ADRが提供する紛争解決手段(alternative dispute resolution)は、和解のあっせんが中心であり、裁判所による訴訟・仲裁機関による仲裁とは異なり当事者を拘束する力がありません。弁護士や学識経験者等からなるあっせん委員が当事者双方から事情を聞いたうえで和解案を提示しますが、当事者がこの和解提案を受け入れるかどうかは任意です。しかし、各機関がウェブサイト等で公表する紛争解決の実績データや解決事例を見ていると、多くの申立事件で和解が成立し、解決に至っていることがわかります。
全銀協のあっせん委員会を例にとって、近時の金融ADRの動向を少しだけ紹介します。全銀協は平成22年10月1日から指定紛争解決機関としての業務運営を開始しました。あっせん委員会は、弁護士、学識経験者、消費者問題専門家、全銀協役職員等から構成されています。当初は東京のみであっせん手続を行っていましたが、現在は活動拠点を東京、大阪、名古屋の3拠点に増やし、今後も拡大していく予定だそうです(この点FINMACは全国50箇所であっせん手続の利用が可能です)。
金融ADRとしての指定を受けて以来、新規の申立件数はうなぎ登りで、全銀協の発表によると、平成22年第3四半期は98件(前年同期16件)、同年第4四半期は156件(同34件)、平成23年第1四半期は201件(同36件)のあっせんの申立がありました。なかでも目立つのはデリバティブ取引に関する事件で新規申立件数の実に5割超を占めています。
デリバティブ取引に関する紛争が増加している背景には、通貨オプション取引をはじめとする為替デリバティブ取引契約による損失の拡大があげられます。金融庁が平成23年3月に公表した平成16年度以降に販売された中小企業向け為替デリバティブ取引契約(米ドル/円)に関する銀行(121行)に対する平成22年9月30日時点の状況の聞取り調査結果によれば、全販売契約数63,700件で、そのうち残存件数は40,500件、通算損失は1,400億円に上っていました。
平成22年9月30日の時点でこの結果ですから、さらに円高ドル安が進んだ現在においては、1兆円を超える損失が発生していても不思議ではありません。ユーロ/円などの取引契約を含めると、件数、損失額ともこれをさらに上回る規模になります。
帝国データバンクなどの情報サービス会社のニュースリリースによれば、近時、円高による倒産や破たん事例が急増しており、かなりの部分は為替デリバティブ損失が主たる原因ということです。憂慮を通り越して、なんとしても救済が図られるべき事態と言えるのではないでしょうか。
さて、今回はこの程度にして、次回も為替デリバティブ取引契約を題材にもう少し金融ADRのお話をしたいと思います。
2011年11月18日 弁護士 樽本 哲
投資商品の勧誘や出資の募集などの契約締結前の交渉過程において、売り手が十分な説明をしなかったために、契約者が多額の損害を被ったとしてトラブルになることがあります。
信用協同組合による出資者に対する出資契約締結前の説明義務違反が問われた民事裁判で、最高裁は以下のとおり注目すべき判断を下しました[平成20(受)1940号最高裁判所第二小法廷平成23年04月22日判決、以下「本判決」といいます]。
【本判決の事案の概要】
個人ら(Xら)が信用協同組合であるYに対して平成11年3月に各500万円の出資をしたところ、Yが上記各出資の約1年9か月後である平成12年12月に経営が破綻した。YがXらに出資を勧誘した時点で、Yは債務超過の状態にありYの代表理事らは、このことを十分に認識し得たにもかかわらず、そのことをXらに説明しないままXらに出資するよう勧誘させた。
Xらは、Yに対し、出資勧誘の際の説明義務違反等を主張して,主位的には不法行為による損害賠償請求権又は出資契約の詐欺取消し若しくは錯誤無効を理由とする不当利得返還請求権に基づき,予備的には出資契約上の債務不履行による損害賠償請求権に基づき,出資金相当額及び遅延損害金の支払を求めた。
主位的請求は原審で棄却されたが、上訴の対象とはならず、原審が認容した予備的請求である債務不履行に基づく損害賠償請求の当否のみ最高裁で争われる形になった。
【判旨】
契約の一方当事者が当該契約の締結に先立ち、説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼす情報を相手方に提供しなかった場合には、上記一方当事者は、不法行為による賠償責任を負うことがあるものの、当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはない。
本判決は、契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼす情報に関する説明義務違反により、契約者が契約を締結するか否かに関する判断を誤って契約を締結してしまい、それによって損害を被ったという限定された事案について、このようにして締結された契約は説明義務の違反によって生じた結果と位置付けられるのであって、先行する説明義務違反をもって当該契約に基づいて生じた義務と捉えることはできないとして、当該締結された契約の債務不履行に基づく損害賠償責任を否定したものであり、講学上、「契約締結上の過失」といわれているもの一般についての責任の法的性質について最高裁の判断を示したものではありません。
しかし、不法行為の事実の立証はハードルが高いうえ、不法行為に基づく損害賠償請求権は3年の消滅時効にかかりますので、同様のケースでは契約上の義務違反としての債務不履行責任を一切問えないということになると、争う側としては訴訟の準備や戦い方に工夫が求められそうです。
そのような意味で、本判決は実務上大きな意義があるものとなりますので、ご紹介いたしました。皆様の参考になれば幸いです。
2011年10月21日 弁護士 澤田直彦
東日本大震災は、私がこれまでに経験した中で最も激しい揺れでしたが、気象庁のHPをみますと、マグニチュード7クラスの地震は、過去10数年の間にかなりの回数発生しており、自らが直接被災することは稀であっても、全国的にみると、毎年のように大地震が発生しています。全国に支店展開している企業や、全国にビルを所有している企業にとって、ビル賃貸借の問題をどのように処理していくかは重要な課題であると言えます。
たとえば、建物が震災により大きな被害を受けて建物への立ち入りすらできないような場合を考えてみます。
賃借人は、震災発生と同時に建物が滅失し賃貸借契約が終了したとして、敷金全額の返還請求をしてくるでしょう。これに対し、賃貸人は、建物が滅失しておらず賃貸借が終了していないこと、解除通知を受け取っていないこと(混乱が収まった数か月後に受領したこと)、また、明渡し及び原状回復が未了であることを理由に、相当額の未払賃料または賃料相当損害金を預かり敷金から控除しようとします。建物を失った挙句、全賃借人から一斉に敷金返還請求を受ける賃貸人の立場からすれば、少しでも返還額を少なくしたいと思う心情は十分理解できます。
ここに、①建物滅失により賃貸借契約が終了したかどうか、また、仮に建物滅失により賃貸借契約が終了したとして、②明渡未了の場合に賃料相当損害金が発生するかどうかが問題となります。
まず、建物が全部滅失した場合には、解除通知なくとも当然に賃貸借契約が終了するとするのが最高裁の立場です(最高裁昭和32年12月3日判決、最高裁昭和42年6月22日判決参照)。
そして、建物が滅失したかどうかは、修復が物理的に可能かどうかのみならず、修復することが経済的にみて合理的かどうかも加味されて判断します。大阪高裁平成7年12月20日判決は、賃貸用居住建物としての社会経済上の効用を喪失し、阪神淡路大震災が発生した1月17日に建物が滅失したと認定し、その時点での賃貸借契約の終了を認めました。
もっとも、震災と同時に賃貸借が終了したとしても、家財道具等を搬出しておらず明渡しが未了である場合、明渡完了までの期間、賃料相当損害金を支払わなければならないのかがさらに問題となります。
しかし、これについては、前掲の大阪高裁平成7年12月20日判決は、建物自体が危険な状態にあり、家財道具類の搬出は事実上不可能であったから、居室は居住目的のほか家財道具類の保管場所として使用することもできない状態にあったのだから、賃貸人には賃料相当の損害を被ったとはいえないとし、賃貸人が、建物取り壊しまでの間の賃料相当損害金を敷金から控除することを否定しました。
なお、賃貸借終了時に一定金額を敷金から当然に控除する特約(いわゆる敷引特約)についても、特段の事情がない限り、震災による倒壊で賃貸借が終了した場合には適用されないとするのが最高裁の立場です(最高裁平成10年9月3日判決、但し居住用賃貸借の事例)。
そうすると、結局、賃貸人は、賃借人からの敷金返還請求に対し、ほぼ満額を返還しなければならないことになります。
賃貸人は、建物を失っただけではなく、ビルやマンションの全賃借人から一斉に敷金返還請求を受け、これに応じざるを得ないのです。この結論は、賃貸人には酷なようにも思われますが、元々、賃貸人は所有のリスクを負っていたこと、敷金は預り金であることを踏まえれば、やむを得ない面もあります。
震災においてはすべての方が被害者になるのですから、非常に悩みの深い問題ではありますが、今回のブログを何らかの問題解決にお役立ていただければ幸いです。
2011年9月15日 弁護士 町田裕紀
◆平成21(受)1019号最高裁判所第一小法廷平成23年7月21日判決
(上記の裁判所のウェブサイトで判決全文を入手できます。)
1.第1次上告審
第1次上告事件では、最高裁判所は、「建物の建築に携わる設計者、施工者らは、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者らに対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負っている。」と判示して、建設業者・設計者の不法行為責任が認められる場合があるとして、福岡高等裁判所に差し戻しました。
2.差戻審(福岡高等裁判所)
差戻審は、「建物の基本的な安全性を欠く瑕疵とは、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険性を生じさせる瑕疵をいう」として、不法行為の範囲を制限的に解釈して、建物所有者側の請求を棄却する旨の判断をしました。
3.第2次上告審
これに対する第2次上告審ですが、「第1次上告審判決にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい、建物の瑕疵が、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には、当該瑕疵は、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当すると解するのが相当である」として、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」を「現実的な危険性を生じさせる瑕疵」に限定しない旨判示した上、福岡高等裁判所に差し戻しました。
なお、この最高裁判所の判決では、このように不法行為の成立範囲を拡げた(限定しなかった)という点以外にも、以下の①~③の3つに分類して、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵の具体例を挙げて、解釈を明確化している点で、特に注目すべきと思われます。
①建物の構造耐力に関わる瑕疵
当該瑕疵を放置した場合に、鉄筋の腐食、劣化、コンクリートの耐力低下等を引き起こし、ひいては建物の全部又は一部の倒壊等に至る建物の構造耐力に関わる瑕疵
→建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当する。
②建物の構造耐力に関わらない瑕疵
建物の構造耐力に関わらない瑕疵であっても、これを放置した場合に、例えば、外壁が剥落して通行人の上に落下したり、開口部、ベランダ、階段等の瑕疵により建物の利用者が転落したりするなどして人身被害につながる危険があるときや、漏水、有害物質の発生等により建物の利用者の健康や財産が損なわれる危険があるとき
→建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当する。
③建物の美観や居住者の居住環境の快適さを損なうにとどまる瑕疵
→建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当しない。
2011年8月23日 弁護士 廣江信行
本件の事案は,居住用建物を上告人から賃借した被上告人が,更新料の支払を約する条項(更新料条項)は消費者契約法10条(又は借地借家法30条により)無効であると主張して,上告人に対し,支払済みの更新料の返還等を求めるものです(上告人も被上告人に対して未払の更新料の支払いを請求しており,両者の請求が併合審理されました。)。
居住用建物の更新料条項を巡っては,近年,下級審において,消費者契約法10条により無効とする判決が出されたことで,実務上の混乱を生じており,最高裁の統一的な判断が待たれていたところでした。
最高裁は,本判決において,消費者契約法10条が消費者契約の条項を無効とする一般的な要件論のほか,更新料条項の経済的合理性,一定の地域における従来の更新料の支払例,及び過去の裁判実務における更新料の取扱等に言及したうえで,①更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載されること,②更新料の額が過度に高額ではないこと,の2つの条件を満たす更新料条項は,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には該当しない(無効とはならない)との初の判断を下しました。
判決のケースでは,賃貸借契約が更新される期間を1年間とし,更新料の額を賃料(月額3万8000円)の2か月分ということが契約書に(一義的かつ具体的に)記載されていました。最高裁は,この程度の更新料であれば「高額に過ぎる」とはいえないと考えていることになります。
とはいえ,これはあくまでもこの判決,この事案での判断ですから,居住用建物の賃貸借契約全般に普遍的に妥当すると考えることはできません。どの程度の更新期間につき,いくらまでであれば過度に高額な更新料ではないのか,今後の研究と事例の集積が待たれるところです。
他方,本判決は,更新料条項が消費者契約法10条により無効とならないための条件として,更新料条項が契約書に一義的かつ具体的に記載されていることを求めていますので,不動産賃貸業者としては,今後はより一層,契約書の記載内容についても留意したいところです。
今後も当事務所の業務に関わりのある注目判例には極力コメントしていきたいと思います。
それではまた次回,このブログにて。
2011年7月20日 弁護士 樽本 哲
皆様にお役に立てるような情報を発信していきたいと思います。